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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)1417号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人本村善太郎同草野豹一郎の各上告趣意は末尾添附の別紙のとおりであって、これに対する判断は次のとおりである。

弁護人本村善太郎の上告趣意第一点乃至第四点について。

所論はいずれも、刑訴第四〇五条に規定する事由にあたらないこと明らかであって上告適法の理由とならない。

弁護人草野豹一郎上告趣意第一点について。

刑訴第四一一条は上告申立の理由を定めたものではなく、同条の規定は、刑訴第四〇五条各号に規定する事由がない場合であっても、上告裁判所が原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認める場合における職権による破棄理由を定めたものであることは当裁判所の判例とするところである。(昭和二十四年新(れ)第五号同年七月二二日大法廷決定参照)。

所論は、刑訴第四一一条を右の如く解釈しなければならないとすれば、同条は被告人の弁護権を保障した憲法第三七条に違反すると主張するのであるが、憲法は、審級制度を如何にすべきかについてはその第八一条において「最高裁判所は一切の法律命令規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」旨を定めている以外何等規定するところがないから、此の点以外の審級制度は立法を以つて適宜にこれを定むべきものであり、(昭和二二年(れ)第四三号同二三年三月一〇日大法廷判決参照)、上告審を以つて純然たる法律審即ち法令違反を理由とするときに限り上告を為すことを得るものとするか、又は、法令違反の外に量刑不当、若しくは、事実誤認を理由とする上告を認め事実審理の権限をも上告審に与えるかは、一般の事情を勘案して決定せらるる立法政策の問題であって憲法上の適否の問答ではあり得ない(昭和二二年(れ)第五六号同二三年二月六日大法廷判決参照)こと、当裁判所の判例とするところである。従って、上告審に如何なる事項を以って上告申立の理由とするか、又職権調査の範囲を如何に定めるかは立法上の問題であり、憲法第八一条の外には何等これを制限した規定は存しないのであるから、刑事訴訟法がその第四〇五条各号に規定する事由だけを上告申立の理由とすることを許し、同法第四一一条に、規定する各事由を上告審の職権による破棄事由としながら、これを当事者からの上告申立の理由とするとこを許さなかつたからといつて、憲法第八一条に抵触するものではないので同法第四一一条が憲法第三七条若しくはその精神に違反するものということはできない。よって論旨は理由がない。

同弁護人上告趣意第二点、第三点について。

所論は刑訴第四〇五条に規定する事由にあたらないこと明らかであって上告適法の理由とならない。

よって論旨は何れも採用できないものであるが、本件については刑訴第四一一条を適用すべきものとも認められないから、同法第四一四条第三九六条に従い主文のとおり判決する。

この裁判は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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